ポケ戦ってこんな話。ザックリあらすじをまとめてみました。

ガンダムシリーズ随一の人間ドラマ

1989年という時代は、レンタルビデオ屋が流行り出したタイミングでしたね。

アニメ業界はTV放送以外の作品発表の場としてビデオ媒体に着目して、やがてオリジナルビデオアニメ(OVA)が大ブームになっていくわけです。

ガンダム0080は富野監督作品ではない初の『ガンダム』であり、オリジナルシリーズのキャラクターが一切出てこない、いわゆるスピンオフ作品の始まりでもあったんですね。

ビデオは全6話だが、終盤まで新型ガンダムはまともに登場しない。

一年戦争末期のサイド6を舞台に、物語は静かに展開する。

本作はガンダムファンにとっては肩透かしになるレベルでモビルスーツ(MS)が登場しないし、戦闘シーンも派手なものではない。

主眼はあくまでも人間ドラマであり、少年と青年パイロットの交流を主題にすることで戦争をリアルに感じさせるという、非常によくできたストーリーが味わえる。

さて、サイド6といえば中立を宣言している唯一のコロニーで、一年戦争という全人類を巻き込んだ未曽有の大惨事から距離を置いている場所である。

平和ボケしてるという意味において現代の日本にも似ているかもしれない。

というわけで、物語の背景を説明しておこう。

  • 宇宙世紀0079年12月下旬の話(つまり戦争末期)
  • 新型ガンダムはニュータイプ専用機としてアムロ・レイに配備される予定だった
  • サイクロプス隊は新型ガンダムの破壊を目的としてサイド6へ潜入する
  • サイド6は中立地帯のためモビルスーツが持ち込みにくい

オリジナルである『機動戦士ガンダム』のストーリーや登場人物、歴史上の出来事とのニアミスが物語のあちこちに絶妙に配置されており、一年戦争が歴史上の大きな出来事であったことが感じられる。

またモビルスーツが登場しないことに明確な理由が描かれており、少数精鋭の特殊部隊ゆえの貧弱な装備とそれを逆手にとった奇襲作戦という描写が生きてくる。

また人間ドラマに主眼が置かれているため各キャラクターの個性が際立っており、特にアルとバーニィの関係性、アルとクリスの関係性、バーニィとクリスの出会いの展開は引き込まれるほど魅力的だ。

サイクロプス隊の面々も個性的で、禁煙に苦しむシュタイナー隊長とか、ぶっきらぼうだが面倒見のいいガルシア、一件豪胆だが酒で恐怖を誤魔化しているようなミーシャと、まるで戦争映画を観ているかのようだ。

主人公の少年、アルは見覚えのあるような小学校に通う平凡な男の子であり、両親は離婚の危機にある。

続いてストーリーをざっくり説明してみよう。

地球連邦軍がニュータイプ専用の新型ガンダムを開発しているとの情報をキャッチしたジオン公国軍は、それを奪取あるいは破壊するためサイクロプス隊を派遣した。

北極基地の襲撃に失敗したことで目標はサイド6へと移動、そのためサイクロプス隊もまたサイド6へと潜入する。

被弾したザクで墜落した新米パイロットのバーニィは、墜落現場で民間人の少年アルと出会う。

作戦の露呈を恐れたシュタイナー隊長はアルを仲間に引き入れることで監視下に置くが、やがてアルとバーニィの間には兄弟のような友情が芽生えていく。

要するに新型ガンダムを探してコロニー内を詮索するうちに情が移ってしまうのだが、この過程の描写が秀逸。

先輩隊員たちとなじめないバーニィと、秘密任務に参加することでクラスメートに優越感を感じるアルの関係性には、どうしても感情移入してしまう。

だが、戦争は非情だ。

狭い範囲で構築されつつあった人間関係は、やがてくる悲惨な結末を迎えて終わる。

バーニィとアルの関係性は兄弟そのもの。新米パイロットもアルには頼れるアニキなのだ。

『ポケ戦』ではMS戦は重要視されていない。

いや、正確には主眼ではないというべきか。

もちろんガンダムとケンプファーの戦闘シーンはガッチリ描かれるし、ザク改とガンダムとの戦闘シーンもある。

だがそれらは終盤に集中しているため、序盤から中盤にかけての人間ドラマの中ではメカ描写はほとんど見られない。

ガンダムファンにとってそれはマイナス点になるかもしれないが、そこで描かれる人間ドラマはとても秀逸で魅力的なものだから、食わず嫌いをせずにぜひ見て欲しい。

特殊潜入任務用に開発されたケンプファー。近接戦闘用の武器を満載しており、市街地でガンダムNT-1アレックスと戦った。

ゲルググJ(イェーガー)やジム・スナイパーⅡなど、人気の高いMSも登場するのだが、それらの多くは「一瞬」だけだ。

この作品があったからこそ、ガンダムシリーズは世界観の広がりを持つことができたわけで、戦闘シーンに意味を持たせるという演出方法が「一年戦争」をよりリアルなものに感じさせることに成功している。

また、こうしたスピンオフ作品が登場したことで「一年戦争」はガンダムファンの共通体験になっていった側面もあると思う。

『ポケ戦』の成功はこの後に続く『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』へと広がりを見せ、歴史の隙間を埋めていくというガンダムの新しい楽しみ方を提供することになる。