08小隊ってこんな話。ザックリあらすじをまとめてみました。
一年戦争の別の側面を描いた人間ドラマ
OVAというジャンルが確立された1996年、ついに真正面から「一年戦争」を描いたスピンオフ作品『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』が発表されます。
しかも舞台はアジア戦線。
まさに泥臭い戦場で繰り広げられる人間ドラマが描かれることになり、登場する兵器もリアリティを追求した描写がなされているのが特徴です。
OVAは全11話と結構長いシリーズですが、物語途中までの総集編に追加シーンを加えた劇場版『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート』と、本来は第12話となるはずだった後日談、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ラスト・リゾート』が制作されております。
どちらもシリーズを楽しむためには必見の内容ですので、これらもセットで観賞することを強くオススメしておきます。
主役メカである陸戦型ガンダム。ジャブローでジムが配備される前に実戦投入されていたことになり、設定上の齟齬が生じてしまった。ま、こういうのはガンダムあるあるですかね。
時は一年戦争の真っただ中、地球連邦軍は長い膠着状況を打破すべく、地球各地での反攻を開始しようとしていた。
東南アジア戦線に配属された新米少尉のシロー・アマダは、陸戦型ガンダムや陸戦型ジムを配備するコジマ大隊に所属する「第08MS小隊」の隊長となる。
部下の誰一人として戦死させたくないと宣言するシローを隊員たちは「甘ちゃん」扱いしていたが、次第にシローの情熱と正義感に感化されていくのだった。
しかしシローは宇宙で出会ったジオン公国軍のパイロット、アイナ・サハリンへの想いを隠しており、彼女との運命的な再会が戦場を混乱に導いていくことになる。
というわけで物語の背景を説明しておこう。
- ちょうどオデッサ作戦が開始される直前頃から物語はスタートする
- 陸戦型ガンダムはRX-78(アムロが乗ってるやつ)の余剰パーツから作られた
- 先行配備された陸戦型ガンダムや陸戦型ジムの稼働数は多くない
- 物語は終戦まで描かれることはない(戦後の描写はあるが)
- ヒロインであるアイナ・サハリンの実家、サハリン家はジオン国内での名家のひとつ
- 『ミラーズ・リポート』で描かれるとおり、シローはスパイ容疑がかけられているため終戦後は拘束・収監される可能性が高かった
本編の主人公、シロー・アマダ少尉。部下に対して理想主義的な態度を取るなど幼さが残るが、その実直な性格や行動はやがて周囲の人々に影響を及ぼしていく。
ヒロインのアイナ・サハリン。没落したサハリン家を再興するため、技術士官の兄ギニアスを献身的に支える。シローとの出会いで戦争の無意味さを知るが、ギニアスの妄執がそれを許さなかった。
オリジナルである『機動戦士ガンダム』で描かれた一年戦争と時間軸を共有してはいるものの、アムロ・レイやシャア・アズナブルなどのキャラクターは登場しない。
その反面、歴史的事実としての「オデッサ作戦」や「ジオン軍の欧州戦線からの撤退」などが描かれているため、一年戦争を多角的にとらえることができる。
つまり「ミハルがあれしていたころに、アジアではこうなってたんだなー」というように楽しめるということだ。
序盤から中盤にかけてはシローが甘ちゃんながらも戦闘に勝利し、歴戦の勇士である隊員たちや地元のゲリラからの信頼を勝ち取っていく様子が描かれる。
ややもするとほのぼのした雰囲気すら漂うのだが、いわゆるベトナム戦争映画に似たようなイメージだ。
そして中盤、ギニアス・サハリンが秘密裡に開発していたモビルアーマー(MA)アプサラスが登場してから、物語は一気に深刻な描写が増え始める。
シローとアイナは戦闘中に遭難し、雪山で互いの気持ちを確かめ合うのだが、その愛ゆえに戦争がますます無駄なものに見えていく。
特にジオン公国軍は欧州戦線での敗北とマ・クベによる核兵器での自爆行為で悲惨な逃避行を続けるはめに陥り、それに輪をかけて卑劣な地球連邦軍の高官による一方的な虐殺行為までが描かれる。
ぜひ実際に確認してほしいが、そりゃあ優しいアイナさんもブチ切れますわ。
アイナ・サハリンを見守り続けてきたノリス・パッカード。グフ・カスタムを駆るエースパイロットで、その戦い方はまさに鬼神のごとし。ランバ・ラルと並ぶグフ乗りの二大巨頭といえる。
『08小隊』のストーリーは一年戦争の流れを知っていないと若干理解しにくい。
物語中では明確にジオンが敗戦してもいないし、地球連邦軍が勝利もしていない。
大局的に見れば東南アジア地域での戦闘が終わった、というだけの話でしかないからだ。
とくに組織としての軍隊の構造や、戦闘兵器としてのモビルスーツ(MS)のリアルな描写には説明があまりなく、たとえば連邦軍のイーサン・ライヤー大佐がなぜあれほど功に焦った行動を取るのかなど、地球連邦軍の内情を知っていた方が深く楽しめると思う。
戦争ドラマとしての側面だけでなくメカ描写も魅力的で、陸戦兵器としてのガンダムやグフ、ザクなどMS同士の熱い肉弾戦がこれでもかと展開する。
とりわけノリス・パッカードの乗るグフ・カスタムは空中を使った三次元的な攻撃を仕掛けてくるため、平坦な陸地で銃を撃ち合うような退屈な戦闘シーンとは一線を画すエースパイロットならではの戦いが見られる。
シローのガンダムEz8と対峙するグフ・カスタム。遠距離攻撃用の量産型ガンタンクを排除しつつ、第08小隊をたった1機で翻弄する活躍を見せる。
序盤から中盤にかけて、シローが理想論を振りかざして戦場で四苦八苦するあたりはややダルイかもしれない。
しかし、アプサラスが登場してアイナとシローの距離が縮まるあたりからは、その急展開にグイグイ引き込まれると思う。
ドラマだけでなく戦闘シーンも激しさを増していくし、アッガイやグフ・フライトタイプ、陸戦型のジムスナイパーだの量産型ガンタンクだの地味ながら魅力的なメカもたくさん登場する。
そして容赦なく戦闘でぶっ壊れていくのだ。
陸戦はその泥臭さが魅力。
まさにガンプラを作りたくなる作品と言えるだろう。
メカ描写はMSだけでなく、その戦闘をサポートする車輌まで丁寧に描かれる。レーダーが使えない戦場で敵機を補足するため、足音や駆動音をキャッチするのだ。
この作品はできれば『機動戦士ガンダム』(※劇場三部作でも可)を観てからの視聴を勧める。
一年戦争というものがどういう戦いだったのか、少なくともその発端と結末は知っておいた方がいいだろう。
歴史上の出来事の中のひとつの物語という意味で、この作品は戦争映画が持つニュアンスにとても近いと言える。
なにも知らずに『プライベートライアン』を観ても楽しめるだろうが、連合軍のノルマンディ上陸作戦について多少でも調べてからの方が、冒頭の上陸シーンの凄惨さがよくわかるというのと同じだ(わかりにくいたとえだが)。
くれぐれも、『ミラーズ・リポート』と『ラスト・リゾート』も観るように。
とくに『ラスト・リゾート』は物語のエピローグだから、これを観ないと物語が完結しないので重ねて注意しておく。
『08小隊』といえばこのシーン。凍った水面に星空が反射して、宇宙の中に佇んでいるように見えるという神演出。その直前の「ドキッ! ビーム・サーベルで温泉大作戦」も見逃せない。